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【蜜に溺れる官能日記】21才 1章: 唇にのこる甘い疼きと、確かな体温

気だるい朝

カーテンの隙間から、容赦のない朝の光が差し込んでいた。
その白すぎる光が、瞼の裏に焼き付いた昨夜の残像を、容赦なく引きずり出してくる。

「……っ」

思わず小さく声を漏らし、リナはシーツを強く握りしめた。
身体の節々が、どこか重たい。それは心地よい疲労感のようでもあり、あるいは、昨夜の熱狂がまだ身体の深部にこびりついているようでもあった。

リナはゆっくりと目を開け、天井を見上げた。
静まり返った自室。空気は澄んでいて、どこか冷ややかだ。
けれど、唇の端をかすめる感覚だけが、嘘みたいに熱を持ったまま残っている。

昨夜、優香と交わしたあのキス。

それは、夢の続きではなかった。
指先が触れた場所が、熱を帯びて疼いている。
優香の、あの柔らかくて、でもどこか強引に、あたしを求めてくるような、熱い口づけ。
目を閉じれば、彼女の吐息が耳元で、鼻先で、そして唇の間で混じり合った記憶が、鮮明な色彩を伴って溢れ出してくる。

「夢じゃない……。本当に、あたし、優香と……」

自分自身に言い聞かせるように呟いた言葉は、朝の静寂に溶けて消えた。
昨夜、二人はどちらからともなく、吸い寄せられるように顔を近づけた。
「私……ずっとこうしたかった」
自分の口から出た言葉が、自分でも驚くほど真実を突いていて、震えていた。
それに応えた、優香の「私も」という、低くて、けれど震えていた声。

その瞬間、世界から「友達」という言葉が剥がれ落ち、代わりに何かもっと原始的で、もっと切実な、名前のつけられない熱が二人を支配した。
重なった唇。最初は触れるだけの、確認するような、恐れを孕んだ接触。
けれど、すぐにどちらからともなく舌が絡み合い、深く、深く、互いの存在を確かめ合うような、貪るような営みへと変わっていった。
優香の指が、あたしの髪を、項(うなじ)を、優しく、けれど逃がさないと言わんばかりに強く、掬い上げた。
互いの呼吸が荒くなり、混ざり合い、どちらが誰の吐息なのか分からなくなる。
その心地よさに身を任せて、あたしはただ、彼女の温もりの中に溶けていくだけだった。

かつてのあたしなら、きっと、こうしてはなかっただろう。
十八歳の頃、あたしはただ、相手の望むがままに、相手が喜ぶような顔をして、求められるままに身体を差し出すことを「愛すること」だと勘違いしていた。
「好きだから、受け入れなきゃいけない」
そう自分に言い聞かせ、本当の自分が何を望んでいるのか、どこで痛みを感じているのか、そんなこと、心の奥底に無理やり押し込めて。

けれど、優香は違った。
彼女は、あたしが「自分」を隠そうとすればするほど、その違和感を見逃してくれなかった。
「リナは、本当はどうしたいの?」
その問いかけに、あたしは初めて、自分の奥底にある暗い欲望や、他人には言えないような独占欲を、さらけ出すことができた。
彼女は、あたしのすべてを、ありのままに受け止めてくれたのだ。
だからこそ、昨夜、あたしは自分から手を伸ばせた。
相手に合わせるためではなく、あたしが、あたし自身として、優香を求めたかったから。

ベッドの中で、リナは自分の身体を確かめるように、ゆっくりと手をご自身の肌に滑らせた。
太ももの内側、腰のあたり、そして――。
昨夜、優香の熱い指先が辿った軌跡が、今もかすかな熱となって残っている気がして、下腹部がキュッと疼く。
それは、単なる性的な興奮だけではなかった。
自分自身が、一人の「女」として、自分の意志で、自分の欲望を肯定しているという、抗いがたい高揚感だった。

ふと、枕元に置いたスマートフォンが、小さく震えた。
リナの鼓動が、不意に速くなる。

震えが止まらない。
恐ろしいのは、相手の反応が分からないことではなく、自分の中に芽生えたこの「もっと触れたい」「もっと壊してしまいたい」という剥き出しの衝動が、自分自身でも制御できないほど膨れ上がっていることだった。

震える手でスマートフォンを手に取る。
画面をスワイプし、通知を確認した。

『おはよ。起きた?』

優香からだった。
たったそれだけの、いつも通りの短いメッセージ。
けれど、その文字列を見た瞬間、昨夜の記憶が鮮烈にフラッシュバックし、リナは息を呑んだ。

あの日、20歳の最後の日。
二人の間に走った、あの火花のような感覚。
あれは、始まりに過ぎなかったのだ。

「……どうしよう」

リナは枕に顔を埋めて、小さく身悶えした。
顔が、熱くて、どうしようもない。
昨日までの「親友」という安全な殻は、もうどこにもない。
優香との間に横たわるのは、未知なる熱と、果てしない快楽と、そして名前のない、けれど確かな「愛」の予感。

リナは、鏡の中に映る、少しだけ瞳の潤んだ自分を見つめた。
そこには、かつての「相手に合わせるだけの自分」は、もういなかった。

今日、大学で彼女に会ったら、あたしはどんな顔をして、どんな言葉をかけるべきだろう。
それとも、言葉なんて必要ないのだろうか。
身体が、その答えをすでに、答えを探しているような気がした。

リナは、新しい一日の始まりに、言いようのない期待と、恐ろしさに近いときめきを感じながら、ゆっくりとベッドから這い出した。

窓の外では、初夏の光を浴びた街が、眩しいほどに輝き始めていた。
けれど、リナの心の中にある熱は、まだ、冷めるどころか、静かに、けれど確実に、燃え上がり続けていた。

(第2章へ続く)

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