【甘美に震える官能日記】19才、揺れる指先と沈む記憶

沈む記憶

帰宅して、靴を脱いだ瞬間、全身がずしっと重くなった。やば、しんど……。バイトも講義も詰め込みすぎたの、マジで失敗だった。

 カバンを床に落とし、ふらふらとベッドへ向かう。もう何もしたくない。メイク落としてないし、コンタクトも入れっぱなしだけど、そんなのどうでもいい。ふわっと沈み込む布団の感触に、一瞬で意識が持っていかれそうになる。

 でも、なんか変だ。

 ベッドが、沈んだ気がする。あたしが横になったから? いや、違う。まるで、誰かが隣に座ったみたいな——。

 ビクッと心臓が跳ねた。ゆっくりと横目で見る。でも、そこには何もない。

 気のせい……だよね?

 なのに、喉がひどく乾いてる。呼吸が浅くなる。

 そっと目を閉じると、ふと過去の記憶が蘇る。

 最後に彼と会ったのは——確か、去年の秋。別れるときの空気は最悪だった。いや、彼の性癖が無理だったんだから、仕方ないでしょ。

 最初は合わせようとした。でも、無理なもんは無理だった。求められるたびに、どこか冷めた目で見てしまう自分に気づいて、もう終わりだなって思った。

 ……なのに、なんで今さら思い出すの?

 ダメだ、寝よう。もう考えたくない。

 布団を深くかぶり、スマホを手に取る。適当にSNSをスクロールするけど、どの投稿も頭に入ってこない。あたしは何を求めてるんだろう。何を、忘れたくないんだろう。

 そんなことを考えていると、ふと、目の端に違和感を覚えた。

 そこにあったのは——ピンクのローター。

揺れる手

 え?

 一瞬、呼吸が止まる。

 ピンクのローターが、ベッドの隅に転がっている。

 なんで? こんなの、持ってたっけ? 誰かが置いた? いや、そんなわけない。ここは、あたしの部屋。あたししかいない。でも、これを見た瞬間、体が強張るのはなぜ?

 じわじわと記憶が浮かび上がる。

 ……あたしが買ったんだ。

 彼と別れた後、衝動的に。

 「お前も好きなくせに」

 別れ際に言われた、彼の言葉が胸を刺す。違う、好きじゃなかった。拒絶した。なのに、あたしはこうして震える指で、ローターを手に取ろうとしている。

 ……確かめなきゃ。

 そう思った瞬間、指が動いた。そっと、手のひらに乗せる。ひんやりと冷たい。小さいのに、ずしりとした重さがある。

 「ほんとに、関係ない?」

 どこかで、彼の声がした気がして、心臓が跳ねた。

 気のせいだ。気のせい。でも、動悸が止まらない。

 ローターのスイッチに、指先が触れる。

 カチッ。

 ぶぅぅ……

 指先に、細かい振動が伝わる。

 「えっ……」

 小さく息を飲んだ。手が、勝手に震える。やばい。止めなきゃ。でも、止める前に、あたしの手は、そっと——

 太ももに押し当てていた。

解放

 ぶぅぅ……

 ローターの振動が、布越しに太ももへと広がる。

 「あ……」

 自分の声が、やけに響いた。息が詰まる。喉が渇く。振動がじわじわと広がって、逃げ場をなくしていく。

 ——これ、あたしのものだよね?

 買ったのは自分。あいつとは関係ない。でも……本当に?

 目を閉じると、彼の声が蘇る。

 「ほら、気持ちいいんだろ?」

 違う、違う!

 布団を蹴飛ばし、勢いよくローターを投げた。

 コツン、と壁に当たって、床に転がる。まだ小さく震えている。

 それなのに、胸の奥でざわざわと何かが蠢いている。

 ……もう、やめよう。

 過去に縛られるのも、思い出に怯えるのも、もう疲れた。

 ゆっくりと息を吐く。震える指で、ローターのスイッチを押す。

 カチッ。

 静寂が戻る。

 目を開けると、天井がぼんやりと滲んで見えた。

 涙が、頬を伝っていた。

 ——これで、本当に終わり。

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