【妄想官能物語】背徳の甘い罠 3-2 揺れる理性

第三話「囁く罪」

第二章「揺れる理性」

「ただいま……」

家のドアを開けると、リビングの奥から夫の声が聞こえた。

「おかえり。遅かったね。」

いつもと変わらない穏やかな声。

私の帰りを待つ人のいる温かい家。

それなのに、玄関をくぐる瞬間、私はまるでこの場所が別世界のように感じていた。

「……うん、ちょっと仕事が長引いて。」

嘘をついた。

さっきまで別の男に抱かれていた唇で、何事もなかったように微笑む自分が、ひどく醜いものに思えた。

「お疲れさま。コーヒーでも淹れようか?」

夫はソファから立ち上がり、キッチンへ向かう。

「大丈夫、私がやるよ。」

鞄を置きながら、私はふと自分の手の甲を見た。

翔の指が触れていた場所。

彼が私を求めた夜の名残が、そこに残っている気がした。

「由梨?」

不意に名前を呼ばれ、はっと顔を上げた。

「何? ごめん、ちょっと考え事してた。」

「疲れてる?」

「……そうかも。」

夫は心配そうに私を見つめる。

私はその視線に耐えきれなくなり、コーヒーカップを手に取った。

「今日は早く寝るね。」

「うん。無理しないで。」

優しい言葉が、胸を締め付ける。

どうして翔の腕の中では、罪悪感なんて忘れられたのに。

どうして夫の前では、こんなにも息苦しくなるんだろう。

夜、ベッドに横たわる。

夫の背中を見つめながら、私はスマホを握りしめていた。

「また、会えるか?」

翔の言葉が、何度も頭の中で反芻される。

ダメだ。もう終わったこと。

そう思いながらも、指先は勝手に画面を開き、翔の名前を探してしまう。

「……」

送るべきではない。

そう分かっているのに、気づけば短いメッセージを打っていた。

「……今度、いつ会える?」

送信ボタンを押した瞬間、私は自分の心がどこへ向かっているのか、もう分からなくなっていた。


➡️ 次章『囁く罪-誘われる心』
⬅️  前章『囁く罪-目覚める朝』
🏠小説TOP『求める罪…それでも私は堕ちていく』


関連記事

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。