【疼く記憶の官能日記】19才、溺れる記憶

刻まれた温度

雨の音が窓を叩く夜。薄暗い部屋の中で、私はひとり、ぼんやりとスマホを見つめていた。

彼の名前を呼ぶことはもうない。けれど、検索履歴にはまだ彼の名前が残っている。消すこともできず、新しく上書きすることもできず、ただそこにあるだけの名前。それが、私の未練の証なのだと分かっていた。

ため息をついてスマホを伏せる。けれど、目を閉じれば浮かんでくるのは彼の顔。

「……っ」

思い出したくないのに。忘れたいのに。

それなのに、身体が覚えている。彼の手の温度、抱き寄せられたときの感触。ベッドの上で何度も求め合った夜のこと。彼が私の名前を囁きながら、指で、唇で、舌で私を侵していく感覚。

頭の奥がじんじんと熱を持ち、太腿の内側がじわりと濡れていくのが分かった。

――ダメだ。

自分に言い聞かせるように、シーツを握りしめる。

でも、どうしようもなかった。

記憶の中の彼は、今も私を求めている。

指先に残る幻影

夜が更けるほどに、私の中の渇望は増していった。

ベッドに横たわりながら、そっと腿を擦り合わせる。指先が肌に触れるたび、彼が触れていた感覚が蘇る。あの熱い吐息、低く響く声。耳元にかかる彼の息遣いを思い出すだけで、奥が疼いた。

「……んっ……」

自分で触れるなんて惨めだと思うのに、もう止められない。そっと下着の上から指を滑らせる。薄布越しに感じる湿り気に、羞恥と興奮がないまぜになる。

もし、今ここに彼がいたら。

その想像だけで、全身が甘く震えた。

夢中で指を動かす。頭の中には、彼しかいない。囁く声も、荒い息も、深く貫かれる感覚も、すべてが鮮明に蘇る。

「……あ……っ、やだ……」

耐えきれず、声が漏れる。

身体が勝手に、彼を求めてしまう。

記憶の中の彼に抱かれながら、私はひとり、果てた。

熱に抗って

朝になっても、昨夜の余韻が身体の奥に残っていた。

ベッドの上で伸びをする。肌に触れるシーツがひどく冷たく感じられた。心も、同じだった。

彼の記憶に溺れるたび、求めるたび、私はひとりで燃え尽きる。満たされるどころか、むしろ空っぽになっていく気がした。

――こんなふうに、いつまで彼を引きずるつもりなのだろう。

虚しさを振り払うように、スマホを手に取る。

LINEのトーク画面を開く。そこには半年間、動くことのなかった彼の名前がある。指が震える。

「久しぶり。元気?」

打ち込んでみる。たったそれだけの言葉なのに、送り出すのが怖かった。

(……送るべき? それとも、このまま……)

迷いながら、指を画面の上に置く。けれど、そのまま動けなかった。

思い出すのは、別れた日のこと。あのとき私たちは、確かに終わったのだ。どんなに身体が彼を覚えていても、心が渇望しても、彼はもう私のものではない。

「……ダメだよね」

小さく息を吐いて、ゆっくりと打ち込んだ文字を削除する。トーク画面を閉じると、スマホを伏せて、ぎゅっと目を閉じた。

渇望は簡単には消えない。それでも、私は過去に戻ることはできない。

――この熱に抗って、生きていくしかない。

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