【妄想官能物語】背徳の甘い罠 2-1 堕ちる予感

第二話「快楽の扉」

第一章「堕ちる予感」


「……逃げないで。」

翔の低い声が、耳の奥に絡みつく。

熱を帯びた吐息が肌を撫でるたび、頭の奥がじんじんと痺れるような感覚に包まれる。

「……翔、ダメ……」

そう言いながらも、私は彼の胸元を押し返すことができなかった。

薄暗いホテルのラウンジ。柔らかく響くジャズの音。グラスの中で揺れる琥珀色の液体。

そして、私の唇を塞いだ彼の熱。

ここで終わらせるべきなのに、翔の手が頬を滑り、耳の後ろを撫でるだけで、背筋が震えた。

「由梨……」

彼が私の名前を呼ぶ。その響きが甘く、そして懐かしすぎて、私は耐えきれずに目を閉じた。

翔と過ごした日々を思い出す。

8年前。まだ若くて、何もかもが眩しくて、愛だけがすべてだった頃。

あの頃、私は翔を愛していた。

……今は?

夫の顔が一瞬脳裏をよぎる。

「……っ」

私は思わず身体を引こうとした。でも、翔は逃がさなかった。

「本当に、帰れるのか?」

彼の指先が、私の指をそっとなぞる。小さな触れ合いなのに、そこから全身に熱が広がっていく。

「……」

理性が崩れる音が聞こえた気がした。

翔は私の手を取ると、そのまま静かに立ち上がった。

「……部屋、行こう。」

それは問いではなく、誘いでもなく、決定事項のように響いた。

私は拒むことができなかった。

ホテルのエレベーターの中、私たちは無言だった。

密閉された空間に、彼の香りが満ちる。

私は震える指で、自分のスカートの裾を握りしめた。

「……今なら、戻れるよ。」

私は小さく呟いた。

エレベーターのドアが開く直前、翔がふっと笑った。

「本当にそう思うなら、こんなところまで来ない。」

その言葉に、私は何も言えなかった。

理性はずっと、私を止めようとしていた。でも、本能が、それを押し流してしまった。

ドアが開くと、翔は私の手を引いた。

私は抵抗しなかった。

そして、部屋のドアが閉まった瞬間――私は、抗うことをやめた。

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